ほんものとうそもの(姉のはなし)
姉を一言で表現すると、「ほんもの」だ
姉が書いているブログのURLを、実はわたしは知っていて、毎回チェックしている
姉の文章がすきだ、姉妹とか家族とかの贔屓目とか、そういうの抜きにして姉は本気でエッセイストとかライターとか、そういうのになればいいと思う
前にそう言ったら笑って流されたけど、わたしはかなり本気でそう思ってる
姉の紡ぎ出す言葉はものすごくて、パワーがあってエネルギッシュで、ギリギリの中で命を燃やして書いている、という感じがする
わたしの姉であるから、同じ家庭で育って、人生経験も似ているはずで、でも全然違う
わたしがこうしていっしょうけんめい誰かに伝われ、わたしの生きたしるしが残れ、と思って必死になって書いている文よりもはるかに熱くて、読んでいるこっちまで心が不安定になってしまいそうなくらい危うくて、それでもこれでもかってくらい力強い
本当に、魂が燃えている、という感じがする
そしてわたしは、その文を読む度に「姉はほんものだ」と感じて、同時に「わたしはにせものだ」と感じる
姉はいつだってわたしの前を歩いていた
わたしを構成するものはすべて姉から始まっている気がする
アイドルだって、読書だって、絵を書くことだって、ピアノだって書道だって英会話だって、始まりは全部姉がやっていたからだ
ピアノも書道も英会話も、最終的にはわたしの方が姉よりずっと長く続けたし、結局わたしの方が長く続けた分だけじょうずになった
でも姉は、わたしみたいに何かを捨てられずに抱えて歩いてもだもだすることをしないだけ
ずるずる引きずったんじゃなくて、自分から切り捨てたのだ
そしてその分だけ、いつも自分を高める何かを身につけている
そのことに気づけていない時期がわたしにもあって、無意識のうちに姉を見下していたことが、たぶんあった
ただいらない重たい荷物を持ち続けているだけで、自分は偉いのだと勘違いしていたときがあった
姉はほんもので、とっても敏いのできっとそのことに気づいていた
姉はわたしをとてもかわいがっている
かわいいねぇと言ってべったべたに触ってちゅーしようとしてくるし、お姉ちゃんがメイクしてあげるねと言ってすぐわたしの顔をいじりたがるし、誕生日にわたしが欲しいと言ったパンの抱き枕を抱えて帰ってきてくれたこともあった
でも同時に、とても憎んでいる
姉は心の病院に通っていて、薬がないと体調が悪くなってしまうくらいだ
ほんもので、敏いから、いろんなことがのしかかって、同じ経験をしたとしても姉の方が早く限界になってしまったんだと思う
姉の繊細な感性はなかなか理解されづらくて、中学生高校生の頃は学校にも行けたり行けなかったりで、ああいう母なので理解も得られず家にいても学校にいても地獄のような日々だったんだと思う
そしてちょうどそのとき、わたしも先述の大きな勘違いの真っ只中だったので、姉の力にはまったくなれなかった
むしろわたしは姉の敵であったのだろう、と思う
わたしは何も言わなかったけど、救おうともしなかったしただ黙って見ていた
きっとその黙って見ていても、伝わる何かがあったのだ
それは取り返しのつかないことなのだ
あとで記憶をなくしてしまうくらい、姉の心が不安定になってしまったときに、わたしに吐き捨てられた言葉をわたしは絶対一生わすれない
「あんたなんて本当は殺したいくらい憎い、大っ嫌い」
姉は全部を昇華して魂を燃やして文章を書ける人だ
まごうことなく「ほんもの」だ
大学生で東京に出てからは、姉の繊細さも面白さも才能もわかってくれる人が出来て、ここにいた時よりずっとたのしそうだ
わたしは、一生姉に勝てないし、一生姉に赦されない
わたしは、誰かを幸せにすることも、勇気づけることも、心臓がびりびりするくらいの衝撃を叩きつけることもできない
所詮、模倣でにせもので、根っこの部分が醜くて、それに気づいてどれだけ洗い流そうとしても、きっと知らないうちに人を傷つけてしまう
忘れちゃいけないこと、忘れてしまいそうになった
あがくのももがくのもわたしの自由だけど、わたしはわたしの本質を忘れてぜんぶなかったことにしちゃいけない
原罪の罪を背負ってくれるキリストはわたしにはいないし、贖罪は成立していないんだから、なぁ